相続放棄に悩むあなたが知っておくべき10のこと

 

はじめまして!

大阪弁護士会・遺言相続センターに所属する弁護士の中川雅貴と申します。

 

あなたがこの記事をご覧になられているということは、最近ご家族やご親族を亡くされた、または、体調を崩されている方がいらっしゃるのでしょう。

そして同時に、その方に借金があるとか、人間関係に困っているとか、お悩みになって「相続放棄」を考えているということですね。

私はこれまでに多くのお客様の相続問題に関わってまいりました。円満に遺産を分割するケースも、親族で骨肉の争いをするケースもありました。

その中で相続放棄を検討するお客様のお話を伺っているうちに、皆さんが似たような悩みを抱えていることがわかってきました。

 

本書では、実際にあった相談例などを踏まえた相続放棄を行うにあたり知っておくべき「10」の知識や、手続き方法を一つずつ説明するとともに、必要となる費用やよくある誤解と勘違いについて解説します。

 

 

【共通の悩みとは】

さて、それではさっそく先に進みたいと思います。

相続放棄を検討する依頼人の「共通の悩み」とは何だと思いますか?

それはこの3つです・・・

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①費用がいくらかかるのかわからない
②手続の内容が全くわからない
③本当に放棄できるか不安
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①費用がいくらかかるのかわからない

相続放棄と聞くと、少々ネガティブな要素を感じる方もいるかもしれません。何かを「得る」のではなく、「放棄」するわけですから、そのために司法書士や弁護士などの専門家に高い費用を支払うことにためらいを感じる方もいらっしゃいます。

個人的には「安心のため」に相応の費用を支払うことは意味のあることだと考えてはいますが、出せる額には人それぞれ限度もあることでしょう。

さて、あまり知られていませんが、日本の法律では「規定の期間内」に「必要な書類を正しく準備」して家庭裁判所に申請すれば「誰でも」相続を放棄することができると定められています。しかも、その申請は「自分で行うことが可能」なのです。

 

ご存じでしたか?

 

もちろん、初めてのことでしょうし不慣れな部分があるから、手続きは難しく感じるでしょう。しかし、専門家に依頼せずに自分で手続きを完了できれば、費用は大幅に削減できます。

 

専門家に依頼すると、概ね相場は7万円~15万円程度でしょうか。

なぜこんなに開きがあるのかというと、対応するサービスの範囲によって値段が変わるからです。安さを謳っている事務所もありますが、対応範囲が狭かったり追加費用が請求される場合がありますのでご注意ください。

 

②手続の内容が全くわからない

普段の日常生活ではなかなか縁がない制度ですから内容がわからないのも無理ありません。具体的な手続きの流れは大きく分けて下の5つの項目になります。

 

1.相続放棄に必要な書類を収集する

2.申述書を作成する

3.家庭裁判所へ申述書と必要書類を提出する

4.家庭裁判所から届く回答書に記入して返送する

5.相続放棄申述受理通知書を受領する

 

本書を読んで頂くと、各項目についてどんな感じの作業が必要かイメージできると思います。

 

③本当に放棄できるか不安

こちらも多くの方が抱いている悩みです。自分の状況で相続放棄ができるのか、ネットや書籍で調べたがイマイチよくわからない。こんな方も多いです。

相続放棄が可能かどうかは、明確に法律で線引きがされています。

専門家に相談するのが一番ですが、よく似た相談例を見つけ自分の状況と照らし合わせることで、かなりの精度で判断することができるようになります。

初めてのことは不安がつきものですが、後述する2つの要件を満たしていれば、ほとんどの方は相続放棄が可能です。少し気楽に構えてこの不安感を払しょくしていきましょう。

 

【自己紹介】

前置きが長くなってしまいましたが、改めて簡単に自己紹介をいたします。
弁護士の中川雅貴です。

私は名古屋出身で、小中高と地元で過ごしました。東京の大学で経営学を専攻し、卒業後は地元に戻り地元企業に就職して会社員として働いていました。

しかし、ある時、企業間のトラブルに巻き込まれ、法律知識の必要性を痛感することになります。祖母の介護や犬の世話もあり、思い切って退職を決断しました。その後、一念発起して京都の法科大学院に入学し、学び直しの末、司法試験に合格したのです。

大手弁護士事務所の勤務を経て、令和5年の春に独立しました。
自分で言うのも何ですが、わりと波乱万丈な人生であるかもしれません。
私は、専門的な知識だけでなく、その豊富な経験を活かしながら、変化する法的環境に柔軟に対応しています。お客様にとことん寄り添い、身近なパートナーとして頼られる存在になるべく、全力を尽くしています。

相続放棄に悩む依頼人とのこれまでのやり取りを基に、私なりの解決策として、「自分でできる相続放棄マニュアル」を作成しました。必要な方はぜひご覧頂ければ幸いです。

https://souzoku-kaiketsu.net/

 

【そもそも相続放棄ってなに?】

さて、それでは基本的なことから説明していきます。
わかりやすくお伝えするために、高校の元同級生から受けた相談を少し脚色して紹介しますね。すでにご存じの方は適宜読み飛ばしてください。

 

登場人物

中川:相談当時は、弁護士3年目。まだ大手弁護士事務所に所属していました。


田中さん:中川の高校の同級生。一人っ子で兄弟姉妹はいない。ご両親は離婚されていて、最近お父さんが亡くなった。現在は、夫と子どもと犬と暮らしている。

 



中川君、お久しぶり!弁護士になったんだってね、びっくりしたよ。
実は先週、父が亡くなって・・・
ちょっと相談に乗ってくれないかな。



田中さん、久しぶり!
同窓会の時以来だね。お父さんお亡くなりになったんだ。
大変だったね。どうしたの?

 

 

実は、父には結構大きな借金があるみたいなの。
自分で少し調べてみたんだけれど、
相続放棄」という制度を使うことってできないのかな?

 

 

相続放棄」は、亡くなった方の財産(遺産)を受け取ることを辞退すること。つまり、遺産を受け取る権利を放棄することだよ。いくつか条件があるけど、田中さんの場合はできるんじゃないかな。

普通は亡くなった方の財産、例えばお金や土地を相続するんだけれど、その方に借金があった場合、それも遺産となるんだ。

つまり、相続した人がその借金を返済しないといけなくなる。他にも、相続した家や土地に対する税金は、相続した人が負担することになるよ。

だから、プラスの遺産よりもマイナスの遺産の方が多い場合は遺産を受け取らない選択肢として「相続放棄」を選ぶ人がいるんだ。親族との付き合いなど人間関係の整理から相続放棄を選択する人もいるよ。

ただ、相続放棄をすると全ての遺産を受け取ることができなくなるし、後になって取り消しもできないので、慎重に決断する必要があるよ。

 

相続放棄」をすると全ての遺産を受け取ることができなくなる

 

相続放棄」は後になって取り消しできない

 

なるほどね、ありがとう!
手続きの仕方について、もう少し教えてくれない?

 

 

まず、相続放棄を行うことができる前提条件として大事なポイントが2つあるんだ。

 

被相続人(亡くなった方)が死亡し、自分がその人の財産を相続する権利があると知った時から3か月以内であること

被相続人(亡くなった方)の財産を、使用したり処分したりしていないこと

 

これに当てはまるなら、大丈夫だよ。

それから具体的な手続きの流れは大きく分けて下の5つの項目になるよ。

 

1.相続放棄に必要な書類を収集する

2.申述書を作成する

3.家庭裁判所へ申述書と必要書類を提出する

4.家庭裁判所から届く回答書に記入して返送する

5.相続放棄申述受理通知書を受領する

 

相続放棄」できるのは自分が相続人だと知ってから3か月以内

 

相続放棄」をするなら亡くなった方の財産に手をつけてはいけない

 

 

どっちも当てはまると思うけど・・・
な、なんか大変そうね・・・
やっぱり弁護士さんとかに正式に頼むのがいいの?

 

 

まぁ、普通に生活してたら相続放棄の手続きなんて一生の中で一度あるかどうかだもんね。慣れるとそんなに難しくないけど、初めての時は難しく感じても当然だよ。

もちろん、依頼を受けて代わりに対応することもできるけど、「相続放棄」は自分でも手続きすることが十分可能だよ。
今回は元同級生ということで特別に教えてあげるから、自分でやってみたら?

 

相続放棄」の手続きは自分でできる

 

 

ほんとに!?
私でもできるかな・・・



とりあえず必要最低限のところは全部教えるよ。
どうしてもわからなかったら「相続放棄マニュアル」を読んでくれる?

 

 

わかったわ!ありがとう!

 

 

いえいえ!それじゃ、始めるよ。
まずは念のため専門用語の説明をしておくね。

覚える必要はないんだけど、「何を」とか「誰を」指しているのか、あいまいなまま手続きを進めて間違えちゃうと大変なので、わからなくなったらここに戻って確認してね。

【専門用語の説明】

(1)「申述書」:相続放棄を認めてもらう申請書類
(2)「申述人(しんじゅつにん)」:相続放棄の申し立てを行う人=あなた
(3)「被相続人(ひ・そうぞくにん)」:亡くなられた方
(4)「相続人(そうぞくにん)」:亡くなられた方の遺産を引き継ぐ方。相続人には順位があります。あなたは相続人であり、申述人でもあります。
(5)「代襲相続人(だいしゅう・そうぞくにん)」:相続人が被相続人より先に亡くなっている場合、その相続人に子(直系卑属)がいる時はその子が相続人となります。また、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合、その兄弟姉妹が被相続人よりも先に亡くなっている場合には、その子(おい・めい)が相続人となります。
(6)「被代襲者」:(5)における被相続人の子や兄弟姉妹を指します。
(7)「配偶者」:亡くなられた方の夫または妻。配偶者は第1~第3の相続人がいるかいないかに関係なく、常に相続人となります。
(8)「直系尊属(そんぞく)」:直接の血縁でつながる本人より前の世代の人(父母、祖父母、曾祖父母、養親など)
(9)「直系卑属(ひぞく)」:直接の血縁でつながる本人より後の世代の人
(10)「第1順位の相続人」:亡くなられた方の子、またはその代襲相続
(11)「第2順位の相続人」:亡くなられた方の直系尊属(父母や祖父母)
(12)「第3順位の相続人」:亡くなられた方の兄弟姉妹(または兄弟姉妹の代襲相続人)
(13)「住民票除票」:住民登録を消除されたことや、最後の住所地が記載された住民票のことです。
(14)「戸籍附票」:その戸籍が作られてから(またはその戸籍に入籍されてから)現在に至るまで(またはその戸籍から除籍されるまで)の住所が記録されている書類です。
(15)「戸籍謄本」:記載されている全員の身分事項を証明するものです。 戸籍は、夫婦と未婚の子によって構成されます。 夫婦と未婚の子が一人であれば、その三人全員の身分事項を証明するものが戸籍謄本になります。
(16)「除籍謄本」:戸籍から抜ける・外れることを除籍といいます。戸籍に記載された人が婚姻や死亡などで全員除籍すると、戸籍そのものが除籍という扱いになり、除籍になった戸籍を証明するものが除籍謄本になります。
(17)「改製原戸籍」:法律が改正され、新しい様式の戸籍に作り変える(改製される)際、古い戸籍は除籍された事になります。この古い戸籍の証明を改製原戸籍謄本と呼びます。改製原戸籍謄本も除籍謄本の一種ですが、除籍された理由が法律の改正によるために名称を区別して呼んでいます。最近では平成6年(1994)に戸籍を紙の帳簿で管理する方式から、コンピュータの電子データで管理する方式に変わりました。

 

 

う・・・うん・・・、えーと・・・
これ全部覚えないとだめなの?

 

 

大丈夫だって、覚えなくていいよ(笑)
なんかわからない言葉が出てきたら、ここに戻ってきて。
さてさて、それでは手続きに必要な作業の解説を進めるね。

1.相続放棄に必要な書類を収集する

相続人には下記の通り優先順位があります。

配偶者は必ず相続人になり、第1順位の相続人(子及びその代襲者)>第2順位の相続人(父母または祖父母等の直系尊属)>第3順位の相続人(兄弟姉妹又は、おい・めい)の順となります。

まずは自分が何番目の相続人かを認識しなければいけません。

ちなみに上位の相続人が存在し、相続している場合は自分に相続の権利は回ってきません。

上位の相続人がすでに亡くなっていて不在もしくはすでに相続放棄を行っている場合に、次順位の相続人に権利が回ってきます。

配偶者や親子間の相続放棄であれば、裁判所に提出する添付書類の収集はそこまで煩雑ではありませんが、相続放棄の申述人と被相続人の関係が、第2順位以降の相続人の場合は、被相続人に先順位の相続人がいないことを確認する必要がありますので、集めなければいけない戸籍謄本の範囲も広くなります。

また重要なポイントとして、被相続人について、すでに相続放棄をしている配偶者や先順位の相続人が家庭裁判所に提出している書類は、改めてあなたが取得して家庭裁判所へ提出する必要はないということです。

もちろん全ての書類を取得し、家庭裁判所へ重複して提出しても問題ありません。どの書類が不足するのかよくわからない場合であれば、あらかじめ相続放棄をした家族・親族もしくは管轄の家庭裁判所に確認されるとよいでしょう。

相続人ごとの必要な書類等の一覧表は下記の通りです。



配偶者や先順位の相続人が相続放棄する際に裁判所に提出した書類は、改めて提出する必要がない

 

亡くなったのは父だから、私は第一順位の相続人(子)ってことでいいのかな。

ということは、私が揃えなくちゃいけないのは、

(1)相続放棄の申述書
(2)収入印紙800円分
(3)予納郵便切手
(4)私の戸籍謄本
(5)父の住民票除票(戸籍附票)
(6)父の死亡の記載がある戸籍謄本

これであってる?

 

 

田中さんは結婚してたっけ?

 

 

夫と子どもが一人と犬が1匹いるわ。

 

 

オーケー、それなら上の6つで合ってるよ。
未婚で親の戸籍に入ってる場合は、
(4)と(6)が同じだから一つで済むんだ。

ちなみに、お父さんの謄本は本籍がある市区町村役場でしか取得できないよ。役場の窓口に直接行くか、遠ければ郵送で取り寄せることができるよ。

それから、田中さんは一人っ子だったよね?
もし兄弟姉妹がいると、自分が相続放棄した分は他の相続人に移ることになるんだ。

 

 

えぇ、一人っ子よ。
お父さん、お母さんと離婚した後北海道に引っ越してたわ・・・
郵送で取り寄せる方がよさそうね。

 

 

そうだね、交通費が高くつくし、仕事や家庭のこととかもあるだろうから郵送での取り寄せがおススメかな。

 

戸籍謄本の発行申請書は各役場のHPからダウンロードできるから、プリントアウトして必要事項を記入して、手数料を定額小為替証書で同封するといいよ。

 

 

数日後・・・

 

書類、全部揃いました!

 

 

お疲れさま。書類が揃ったら次は・・・

2.申述書を作成する

必要な書類が揃ったら、次は申述書(相続放棄の手続きを行う申請書)を作成するよ。
書類は裁判所の公式HPからダウンロードして、印刷してください。

申述書:
https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/index.html

記入例:
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file2/2019_souzokuhouki_m.pdf

間違いや誤記入があると、書類不備となり家庭裁判所から補正の連絡がきたり、相続放棄申述書が受理されない場合もあるので、取得した戸籍謄本等を参考にしながら、丁寧に落ち着いて記入してね。

ちなみに「相続放棄マニュアル」には、この書類を項目入力だけで自動で作成するサービスがついてます!

 

 

ところで、最初のところにある「管轄の家庭裁判所」って何?

 

 

ここは亡くなられた方の最後の住所を管轄する家庭裁判所を記入します。

裁判所の管轄区域の調べ方は、HPから住所を検索すると良いでしょう。

https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html

 

 

ひー、これは教えてくれる人がいないと難しいわ。
でも、おかげで何とか書類も出来上がりました!

 

 

素晴らしい!ここまでくれば、もうひと踏ん張りだよ。
次は・・・

3.家庭裁判所へ申述書と必要書類を提出する

申述書が完成したら、管轄の家庭裁判所に直接持ち込むか、郵送で提出します。
集めた書類と申述書、そして申請費用となる「収入印紙800円分(コンビニや郵便局で購入できます)」、また裁判所に予納する郵便切手「予納郵便切手」を揃えて下さい。

「予納郵便切手」とは、家庭裁判所に預ける、申述人と家庭裁判所との間の連絡のために必要となる切手(普通の郵便切手)のことです。管轄の家庭裁判所に応じて切手の種類(額)や枚数が異なるので、あらかじめ裁判所に確認を取ってください。

例えば、被相続人の最終住所が

「東京都墨田区」であれば、

管轄は東京家庭裁判所、予納切手は84円が4枚、10円切手が4枚

大阪府大阪市」であれば、

管轄は大阪家庭裁判所、予納切手は84円が5枚、10円切手が5枚

といった感じです。

 

 

なんで裁判所ごとに違うの?
父の最終住所は網走なんだけど、いくらになるの?

 

 

各地の裁判所がそれぞれ独自に規定してるので、しょうがないんだ。
僕らもいつも面倒なんだよ・・・
北海道はね・・・代わりに調べるの特別だからね・・・
(※マニュアルには全地域が載ってます)

北海道は広いから、4つの裁判所があって16の支部と12の出張所に分かれているんだ。
それに切手の額も84円を3枚のところと、84円が5枚、10円切手が5枚のところが混在してるんだよ。

網走市が最後の住所地の場合は、「釧路家庭裁判所網走支部」が管轄で予納郵便切手は84円が3枚必要だよ。

 

裁判所とのやり取りに予納郵便切手が必要、枚数と金額は裁判所によって異なるので要確認

 

ありがとう!相変わらず優しいね!

 

 

調子いいなぁ・・・
ちなみに、郵送の場合は「レターパックプラス」がおススメだよ。
配達員が対面で届けてくれるから確実だし、通常郵便の「速達+簡易書留」よりリーズナブルなんだ。
郵便局やコンビニなどで「520円」で売ってるよ。

 

書類一式の提出は「レターパックプラス」がお得

 

 

あともう一つ、大事なポイント。

もし、相続放棄の熟慮期間(3か月)の締め切り日が迫っている場合は、全ての添付書類が揃っていなくても構わないので、申述書とその時点で揃っている添付書類を先に提出し、受付手続きを済ませちゃってください。

後から必要な書類を追加で提出することで、手続きを進めることができます。

 

期限ぎりぎりの場合は、書類が全部揃ってなくてもとりあえず裁判所に提出、後から追加提出でOK

 

意外と裁判所も融通が利くのね。
ふー、書類一式郵送できたわ!
ちゃんと「レターパックプラス」で送ったわよ(笑)
これで手続きは完了なの?

 

 

お疲れさま!もう少しだけやらなきゃいけないことがあるんだ。

4.家庭裁判所から届く回答書の記入と返送

無事に相続放棄申述書や戸籍謄本の提出を終えた後、1~2週間すると家庭裁判所から申述人の自宅に「相続放棄照会書」と「回答書」が送付されてきます。(送られてこない場合もあります)

この書類は相続放棄が本当に本人の意思であるかを確認するための書類なんだ。必要事項を記入し、各書類の提出先と同じ家庭裁判所に郵送または直接窓口で提出しないといけないんだ。

もし「相続放棄照会書」と「回答書」が届かないときは、特に対応は不要です。
この場合は、家庭裁判所において、申述書に記載された内容に特に気になる点はなく、照会したいことがなかったといえるので、そのまま受理される可能性が高いです。

もう一つ注意点なんだけど、照会書と回答書には、

「この書面の右上に記載してある日付から10日以内に、当裁判所宛てにご回答をお願いいたします。」

とか

「令和○年○月○日までにご返送ください。」

というように返送期限が記載されているんだ。

「右上に記載してある日付」は家庭裁判所で照会書を作成した日付なんだ。照会書と回答書が届くのは郵送で、作成日から数日経っているので、「10日以内に」という場合は、実際には、それより短い日数しか余裕がないから、要注意だね。

期限に間に合わない可能性がある場合は、家庭裁判所に電話して、担当の書記官に相談したほうが良いよ。

 

 

この記載も裁判所ごとに違って統一されてないのね・・・?

 

 

お察しの通り(笑)
でも、この書類で提出物はおしまい。この後、通知書が送られてきます。

5.相続放棄申述受理通知書の受領

照会書と回答書の内容に問題がなければ、数日~数週間後に相続放棄が受理され、「相続放棄申述受理通知書」が送られてきます。
この書類は、相続放棄の申請が受理されたときに、家庭裁判所から相続放棄した本人(申述人)に送付される書類です。
この通知書が送付され受け取ることで、相続放棄の申述が完了します。

ちなみに、この書類は一度しか発行されず紛失してしまうと再発行できないから、大切に保管しておいてね。

 

 

相続放棄申述受理通知書」届いたわ!本当にありがとう!
これでもう安心ね!

 

 

あのね、これまた大事な話なんだけど、相続放棄したことを債権者(借金取り)は知らないのよね。
裁判所は通知とかしてくれないから、もしかしたら借金の支払い請求が田中さんのところに来るかもしれない。

 

 

えええー、どうしたらいいの?相続放棄したら払わなくていいんでしょ?

 

 

もちろん支払わなくていいよ。
でもその時は、債権者に対し相続放棄したことを自分で知らせる必要があるんだ。
だから「相続放棄申述受理通知書」をコピーして送付すれば、それ以降支払を請求されることはなくなる。
ただ、さっきも言ったけど1通しか発行されないから、原本は渡しちゃだめだよ。
基本的に、相続放棄の事実確認を求められたら「相続放棄申述受理通知書のコピー」を送付すると覚えておいて。

もし原本を無くしたり、金融機関等が原本の提出を求めてきた際は、再発行のできない「相続放棄申述受理通知書」の代わりに「相続放棄申述受理証明書」を取得し、こちらを郵送すればオーケー。

債権者によっては、「相続放棄受理通知書」ではなく、「相続放棄申述受理証明書」の提出を求めてくることもあるよ。相続放棄の手続きを行った裁判所に申請すると「相続放棄申述受理証明書」を発行してくれるよ。

 

相続放棄の事実確認を求められたら「相続放棄申述受理通知書のコピー」を送付する

 

なるほどね、よくわかりました!
ほんとの本当にありがとうございます。

中川君のおかげで自分で相続放棄できちゃった。
また困ったことがあったら相談のってね!

 

 

相続放棄申述受理通知書」の原本は絶対提出しちゃだめだよ!

何はともあれ、これで無事相続放棄は完了だね。お疲れさま。
困ったことがあったらいつでもどうぞ!

 

相続放棄にかかる費用】

といった感じで、やや複雑な準備と作業が必要となります。
特に書類集めは一苦労です。

慣れると難しくないのですが、そもそも皆さんにとっては人生の中で一度あるかどうかという手続きですから、丁寧に理解し確実に進めるのが良いでしょう。

この章では手続きに必要な大体の費用についてまとめます。
「大体の」というのは、戸籍などの書類取得にかかる交通費・郵送費などが各個人で違いますので、あくまで目安としてお考え下さい。

証明書の手数料(1通あたり)
戸籍謄本:450円
除籍謄本、改正原戸籍:750円
住民票除票:300円
戸籍附票:300円

相続人の順位によって取得枚数が異なります。
最も少ない方で2通、最も多い方で20~30通集めなければいけない方もいます。

従って、書類費用として1,000円程度から15,000円程度の幅があります。

収入印紙
800円分

予納切手
84円切手 5枚
10円切手 5枚

計470円 ※最大必要数の家庭裁判所を参照して計算しています

上記に、役場とのやり取りに費やした交通費もしくは郵送費、そして家庭裁判所に提出する際の郵送費を加えたものが、自分で全ての手続きを行った際に掛かる費用です。

とはいえ、当然ですが自分で手続きを行うと時間と労力がかかります。
それを専門家に任せた場合の費用目安です。

司法書士:5万~7万程度
弁護士:10万~15万程度

冒頭でも触れましたが、この費用の差は「行うことができる手続きの範囲」が異なるからなのです。この「範囲」は法律で決められています。

弁護士は手続きのすべてを委任することができますが、司法書士は一部制限があります。他にも、法的な問題が起きた時の交渉などは弁護士にしかできません。

とはいえ、それぞれの事務所が決める報酬規程があるので、あくまで相場は参考程度とお考え下さい。

私の事務所の場合は、

ご自身で手続きする際のマニュアル:19,800円(税込)
相談を含む弁護士への依頼:110,000円(税込)

で引き受けております。

 

相続放棄に対する誤解や勘違い】

ここでは相続放棄についてのよくある誤解や勘違いを解消するために、これまでの依頼人に質問されたケースを中心にお伝えします。

 

相続放棄の手続きが終わった後、もし故人に新たな借金が見つかった場合、私が払わないといけないのでしょうか?

 

 

相続放棄の手続後は、亡くなった方の借金返済をする必要はありません。

相続放棄の手続が完了して安心していると、見覚えのない債権者から手紙が届き、被相続人に新たな借金があったことが発覚することがあります。このような場合、新たに発覚した借金についても返済する必要はありません。

相続放棄は、「初めから相続人とならなかった」とみなされ、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を承継しないという制度です。そのため、相続放棄前から判明している財産も、相続放棄後に発覚した財産も、同一に扱われます。通常、債権者に対し「相続放棄申述受理通知書」の写しを送付すれば、借金の請求はストップします。



 

遺産分割協議書に「相続放棄をする」とサインしたので、相続放棄の手続きは完了していますか?

 

 

遺産分割協議書にサインしても、相続放棄の効果はありません。

相続放棄家庭裁判所へ申請が必要です。

相続人同士で遺産分割について話し合いを行っていると、相続人の一人が「自分は財産は受け取らないから、借金も一切負担しない」と言い出すことがあります。

誤解している方が多いのですが、「相続放棄をする」と発言するだけでは、相続放棄をしたことにはなりません。遺産分割協議書に「相続放棄をする」とサインしても、相続放棄の効果はありません。相続放棄は、家庭裁判所を通した「公的」な手続です。

家庭裁判所にきちんとした申述書を提出して、正式に相続放棄が認められて初めて、「相続人とならなかったとみなす」という効果が生じます。

遺産分割協議書に「自分は相続放棄をする」と記載しても、債権者には関係がありません。もしも亡くなった方が銀行から借金をしていた場合には、銀行から取り立てをされてしまいます。遺産分割協議書に記載しただけでは、債権者からの督促を無視することはできません。亡くなった方の借金を負担したくないのであれば、きちんと家庭裁判所相続放棄の申述を行い、正式な手続を行う必要があります。

むしろ、相続人全員で遺産分割協議を行ってしまうと、法定単純承認と認定され、相続放棄ができなくなってしまうおそれもあります。

 

 

国外に住んでいますが、相続放棄をすることが可能でしょうか?

 

 

はい、可能です。通常の相続放棄と同様の手続きで相続放棄をすることができます。

相続人が海外に住んでいても、亡くなった方が日本で生活をしていたのであれば、通常の相続放棄と同様の手続きで相続放棄をすることができます。しかし、海外に住みながらご自身で書類の収集や裁判所とのやり取りを行うのは現実的ではありません。

外国籍の方の相続放棄につきましては、必要書類が異なる場合がありますので注意が必要です。国際相続に詳しい弁護士に相談するのがいいでしょう。

海外在住で相続放棄をお考えの方は、代理人として弁護士にご依頼いただければ、スムーズに手続きを進めることができます。

 

 

相続放棄の書類を集めながら、遺品の整理を始めても良いですか?

 

 

たとえ処分するとしても、遺品の整理を相続放棄の手続き完了前に行ってはいけません。
原則として、相続放棄の申述が認められるまでの間は、故人の遺品に手を付けないでください。

相続放棄が認められると、「当初より相続人ではなかった」とみなされます。つまり、初めから被相続人とは全く関係が無い人物であるものとして扱われます。そのため、相続財産について全く関係のない他人となるということは、遺品を整理する権限もないということになります。

無断で遺品を処分したり、売却したりすると、相続放棄の申述が認められなくなることがあります。どのような場合に相続放棄が認められなくなるかは、裁判所の判断によりますが、特に注意すべき行為は、遺品をリサイクルショップや質屋などに高値で売却したり、市場価値が高い物を捨ててしまうことです。このような行為をすると、相続する意思があるように振る舞っていると考えられ、相続放棄をすることができなくなります。これを「法定単純承認」と呼びます。

もっとも、被相続人が賃貸物件に住んでいた場合は、大家さんから「早く遺品の整理をしてくれ」と催促されることがあります。このように、急いで遺品整理を行わざるをえない場合に限っては、別の場所に遺品を移動させるなど、最低限の行為をすることができます。ただし、このような場合でも、遺品を売却したり処分したりすると、後になって問題となることがあります。急いで遺品の整理を行わなければいけない場合は、遺品に手を付ける前に、弁護士に相談しましょう。弁護士の立会いのもとで遺品を移動させたり、証拠となる写真や遺品のリストを作成するなど責任を持って十分な対策を取る必要があります。

慌てて遺品の整理を行ってしまうと、後に相続放棄が認められなくなるおそれがあります。リスクを十分認識して、急いで遺品の整理を行う必要がある方は、弁護士にご相談ください。

 

 

故人の財産を葬儀費用に使ってしまったのですが、相続放棄をすることはできますか?

 

 

葬儀の規模が「身分相応」の場合は、相続放棄は可能ですが、必要以上に規模の大きい葬儀を相続財産で行った場合は、相続放棄はできません。

日本の法律では、「相続財産を処分したり使用した相続人は、その後に相続放棄をすることはできない」と定められています。
そのため、原則として、亡くなった方の財産を使って葬儀を執り行ってはいけません。葬儀を行う際は、お香典の中から費用を捻出するか、それでも足りない場合は親しい家族の間で分担しましょう。

しかし、お通夜や葬儀の手配というのは、家族が亡くなってすぐに取り掛からなければいけませんので、通常は、相続放棄のことまで考えている余裕はありません。家族が亡くなり精神的に余裕がない時期ですので、相続放棄を検討している場合でも、うっかり故人の預金を使ってしまうことがあります。

この点について裁判所は、「身分相応の葬儀のために、最低限の費用を捻出したのであれば、相続放棄をすることができる」としています。

ここでのポイントは、「身分相応」の葬儀という点です。亡くなった方の生活状況や交友関係を十分に考慮して、最低限の規模であれば、許容されうるということです。必要以上に規模の大きい葬儀を執り行った場合には、相続放棄をすることはできなくなりますので、気をつけましょう。

 

 

未成年でも相続放棄できますか?

 

 

はい、相続人が未成年であっても、相続放棄をすることはできます。

ただし、未成年の場合は、自分で手続きをすることができません。そこで、「法定代理人」と呼ばれる人が、代わりに手続きを行います。通常は、親が法定代理人となって、手続を行います。また、未成年後見人が選任されている場合は、未成年後見人が法定代理人となります。しかし、親が法定代理人となる場合には、「利益相反」に注意しなければいけません。

例えば、父親が亡くなって、その妻と子どもが相続人となるケースを考えてみましょう。
子どもだけが相続放棄をする場合、妻が一人で相続人となり、全ての遺産を引き継ぐことになります。もし、遺産の総額がプラスである場合、子どもは相続放棄をすることによって損をしますが、妻は子どもが相続放棄をすることによって得をします。このような場合、妻と子どもの損得の考え方が反対となるので、利益が相反する(利益相反)といいます。

上記の例では、妻が、子どもの法定代理人として子の相続放棄だけをすることはできません。このようなケースでは、家庭裁判所に「特別代理人」を選任してもらう手続が必要となります。家庭裁判所が、審査を行い、子どもの代理人となるにふさわしい人物を選任します。なお、妻が子と同時に相続放棄する場合であれば、利益は相反しないので妻が法定代理人として子を代理して相続放棄することは可能です。

 

 

相続放棄をしても、故人の生命保険は受け取れるのでしょうか?

 

 

はい、受け取れます。

相続放棄は、「初めから相続人とならなかった」とみなされ、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を承継しないという制度です。生命保険金は亡くなった方の財産ではないので、放棄する財産の対象外です。

生命保険は、亡くなった方が積み立てたお金によって成り立っていますが、保険会社から支給される保険金は、受け取る方の固有の財産です。もしも亡くなった方の子供が受取人であれば、支給されるお金は「その子供自身が保有する財産」なのです。

遺族年金も、生命保険と同じように考えます。遺族の方自身が保有する財産なので、相続放棄をした後でも、問題なく受け取ることができます。

 

 

故人に未支給の年金があることがわかりました。
相続放棄をしてしまったのですが、受け取ることができますか?

 

 

はい、受け取ることができます。

「未支給の年金」とは、亡くなった方に支給されるはずの年金が、手続きのミスによってきちんと支給されておらず、未払のままとなっている年金のことです。

亡くなった方の親族は、国民年金法が定める条件を満たしていれば、未支給の年金を受け取ることができます。最高裁判所によると、「未支給の年金の制度は、法律で認めた特別の制度」なので、相続の対象ではなく自己の固有の権利とされています。そのため、相続放棄をした後でも、受け取ることができます。

 

相続放棄をするか悩んでいるあなたへ】

最後の章は相続放棄をするかどうか迷っている方へのアドバイスを載せておきます。

まずは、何と言っても「財産調査」が重要です。
亡くなった方の財産がどのくらいあるのか、できる限り詳しく調べてください。

そして、プラスの遺産(不動産、金融資産、預貯金などの現金等)とマイナスの遺産(税金の滞納、借金や損害賠償請求などの負債)を合算し、トータルでプラスなのかマイナスなのか、あるいは差し引きゼロくらいなのか、最初の基準を出しましょう。

基本的には、プラスなら相続、マイナスなら放棄、これで良いと思います。

ちなみに、この財産調査は相続放棄の熟慮期間(3か月)以内に行う必要がありますが、期間が足りないという場合、申立てをすることで延長することができます。

わずかなプラスで相続しても将来的な管理や税金が大変というのであれば、相続後に売却してしまう選択肢もあります。また、マイナスでも土地や建物に愛着があるのであれば、相続する理由に十分値します。

その上で、例えば親族や被相続人と疎遠で関わりたくない気持ちや相続争いに巻き込まれる可能性など、感情的なリスクを考慮します。

プラスでも相続すると相続人間での遺産分割協議でもめて精神的な負担が大きい場合や、人間関係を整理したい、縁を切りたいというような気持ちが強ければ相続放棄をすることを検討しても良いでしょう。

100人いれば100通りのメリットとデメリットが存在しますので、ご自身の気持ちとよく相談して、正直に判断を下すと後悔が残りません。

もし迷うことがあれば、有料にはなってしまいますが私に相談頂くことも可能です。その場合は、こちらからご連絡ください。


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お困りのことがあればいつでもお声掛け下さい。
それでは次回作でまたお会いしましょう!

 

2023年7月6日 中川雅貴 記

 

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